RCD管理人の平成 継男です。
ホンダ ビート、スズキ カプチーノと続いた「平成のABCトリオ」特集。いよいよ真打ちの登場です。最後を飾るのは、トリオの中で最も過激で、最も数が少なく、そして最も「狂気」に近い一台。
それが、「マツダ(オートザム) AZ-1」です。
この車は、単なる軽スポーツカーではありません。軽自動車規格の中で「ガルウィングドア」と「ミッドシップ」を採用し、外板をすべてプラスチック(FRP)で構成するという、スーパーカーそのものの作りをした「公道を走るレーシングカート」です。
その特異な構造と、あまりにクイックな挙動から、時には「未亡人製造機」などという不名誉な(しかしある種の畏敬を込めた)異名で呼ばれることもあります。
- 軽唯一のガルウィングドアとFRPボディが創り出す、世界最小のスーパーカーの異彩について
- MRレイアウトと超クイックな挙動がもたらすスピンと隣り合わせの過激な運転体験について
- ガラスや専用外装部品の欠品による、最も困難な旧車維持の現実について
- マツダスピード車などを含む、現在の投機対象となっている極めて高い中古車相場について
はじめに:常識外れの「ドリームカー」

オートザム AZ-1(PG6SA型)は、1992年に発売されました。当時のマツダは「5チャンネル体制」を敷いており、軽自動車ブランドである「オートザム」のフラッグシップとして投入されました。
開発コードネームは「サイベリアン・エクスプレス」。そのコンセプトは、実用性を一切無視し、「走る楽しさ」と「スタイリング」だけに全振りました。
- ドア: 市販軽自動車で唯一無二の「ガルウィングドア」を採用。
- 構造: 「スケルトンモノコック」と呼ばれる強固なフレームに、FRP(強化プラスチック)製の外板パネルをボルト止めするという、レーシングカー同様の構造。
- エンジン: 運転席の後ろにエンジンを積む「ミッドシップ(MR)」レイアウト。
しかし、発売直後にバブルが崩壊。高額な価格と、あまりに尖りすぎたコンセプトゆえに販売は低迷し、わずか3年弱で生産を終了。総生産台数は約4400台(OEMのスズキ キャラを含めても約5000台)という、幻の名車となりました。
1. 伝説の相場:現在の中古車市場と「マツダスピード」

AZ-1は、その希少性と海外(JDM)人気の爆発により、現在の中古車相場は「高騰」という言葉では片付けられないレベルに達しています。
グレード別・現在の中古車価格帯(PG6SA型)
AZ-1は基本的にモノグレードですが、特別仕様車やマツダスピードバージョンが存在します。
| モデル | エンジン | 特徴 | 中古車価格帯(目安) | 傾向 |
| 標準車 | F6Aターボ | 青/赤のボディカラーが基本 | 250万円~450万円 | 状態が良い個体は300万円オーバーが当たり前。 |
| マツダスピードVer. | F6Aターボ | 専用エアロ、ボンネットなど | 350万円~500万円以上 | 限定生産。エアロパーツだけでも高値で取引される激レアモデル。 |
| M2 1015 | F6Aターボ | マツダ直系「M2」が手掛けた限定車 | 400万円~ASK | フォグランプ埋め込みボンネットが特徴。コレクターズアイテム。 |
【RCD管理人としての考察】
AZ-1は、もはや「車」というより「投機対象」や「美術品」に近い扱いを受けています。購入を検討する場合、価格もさることながら、「フレームの歪みがないか」と「ガラス類が割れていないか」が最重要チェック項目です。修復歴があっても、しっかりと直っていれば御の字という世界です。
2. AZ-1のロマン:スーパーカーの最小単位

AZ-1がこれほどまでに愛される理由は、軽自動車という枠組みを超越した、その設計思想にあります。
2.1 軽唯一のガルウィングドア
AZ-1のアイデンティティは、何と言ってもガルウィングドアです。
ダンパーによって跳ね上がるドアは、スーパーカー世代の憧れそのもの。乗り込む際にはサイドシル(敷居)が高く、シートが低いため、まるで浴槽に浸かるような独特の姿勢を強いられますが、それすらも「非日常への儀式」として愛されています。
2.2 スケルトンモノコックとFRPボディ
AZ-1は、鉄の骨組み(スケルトンモノコック)に、プラスチック(FRP)の外装パネルを貼り付けただけの構造です。
- 重心の低さ: 重い鉄板を屋根に使っていないため、重心高は400mm台という、フェラーリやランボルギーニにも匹敵する低さを実現しています。
- ゴーカートフィール: この低重心と、ロック・トゥ・ロックがわずか2.2回転という超クイックなステアリングにより、手首を少し動かすだけで車体が向きを変える、鋭敏なハンドリングを実現しています。
2.3 アル・トワークス譲りのF6Aターボ
エンジンは、スズキ アルトワークスから移植された名機「F6A型 DOHCターボ」です。
- フィーリング: ドッカンターボ気味の特性が、軽量なボディ(720kg)を強烈に加速させます。背中のすぐ後ろでエンジンが唸るため、音と振動がダイレクトに伝わり、体感速度は実際の速度の1.5倍以上とも言われます。
3. AZ-1オーナーに突きつけられる「恐怖」と「維持の現実」

AZ-1は、その尖りすぎた性能ゆえに、運転と維持の両面でオーナーに過酷な試練を与えます。
3.1 究極のハンドリングと「スピン」のリスク
AZ-1のホイールベース(前輪と後輪の間隔)は極端に短く、前後重量配分はリア寄り(44:56)です。
- 特性: 回頭性は抜群ですが、一度リアが滑り出すと、その挙動はあまりに速く、プロドライバーでも修正が困難な場合があります。
- 危険性: 限界を超えた瞬間にクルッと回る「独楽(コマ)のようなスピン」を誘発しやすく、これが「未亡人製造機」などと揶揄される原因となりました。雨の日や下り坂のカーブでは、最新の注意が必要です。決して初心者向けの車ではありません。
3.2 ガラスと外装パーツの「絶望的な欠品」
AZ-1の維持において最も恐ろしいのが、部品の欠品です。特に外装関係は致命的です。
- 専用ガラス: ガルウィングドアのガラスやフロントガラスは専用品であり、新品はほぼ入手不可能です。もし割ってしまった場合、中古品を数十万円で探すか、アクリルでワンオフ製作するしかありません。
- FRPパネル: 外装パネルも欠品しており、ぶつけて割ってしまうと交換が効きません。板金修理もFRPの専門知識が必要です。
3.3 室内環境:「走る温室」
ガラス面積が広く、エアコンの効きが弱いAZ-1の車内は過酷です。
- 夏場の地獄: 頭上のガラスから直射日光が降り注ぎ、背中のエンジンからは熱が伝わってきます。サイドウィンドウもチケットウィンドウ(小窓)しか開かないため、換気も不十分。夏場の運転はサウナ状態となります。
- ドアダンパーの劣化: 重いガルウィングを支えるダンパーが抜けると、ドアが保持できず、乗り降りするたびにギロチンのように頭上に落ちてきます。定期的な交換が必須です。
【年間維持費の目安】
基本整備費は軽自動車並みですが、専用部品の確保、エアコン修理、そして事故のリスクへの備え(車両保険は高額または加入拒否される場合あり)を考慮すると、年間50万円以上の「有事への備え」が必要です。
4. AZ-1オーナーの「生の声」:コメント欄の反響
オーナーからの声

「子供の頃からの夢を叶えました。コンビニに停めるだけで視線を感じます。乗り降りはアクロバティックで腰に来ますが、ドアを跳ね上げた瞬間の優越感は何物にも代えがたいです。ただ、夏は暑すぎて乗れません。早朝専用機です。」

「外装パーツをストックするために、ボロボロの部品取り車をもう一台買いました。『車を直すために車を買う』という本末転倒な状態ですが、それくらいパーツがありません。ガラスを割ることだけが今の最大の恐怖です。」

「峠で調子に乗ってスピンし、ガードレールと友達になりかけました。この車は『ドライバーを育てる』のではなく『ドライバーを選ぶ』車です。限界挙動を知ってからは、街乗りでも緊張感を持って運転しています。」
5. まとめ:AZ-1は「狂気」を飼い慣らす覚悟があるか
マツダ(オートザム) AZ-1は、バブルという狂騒の時代が生み出した、世界最小のスーパーカーです。
ガルウィング、ミッドシップ、FRPボディ。これだけの要素を軽自動車に詰め込んだ車は、二度と現れないでしょう。
しかし、その所有は、「部品欠品の恐怖」、「シビアな運転特性」、「過酷な車内環境」との戦いです。この車は、移動の道具ではありません。「AZ-1という非日常体験装置」です。
それを飼い慣らし、維持し続けるには、生半可な気持ちでは務まりません。しかし、ガルウィングを開け、低いコックピットに滑り込み、背中のエンジンに火を入れた瞬間、すべての苦労が吹き飛ぶほどの「特別な世界」が待っています。
「誰に何と言われようと、自分だけのスーパーカーが欲しい」。そんな究極のエゴイズムを持つ人だけが、最後のABCトリオ、AZ-1のオーナーになれるのです。
【記事の終わりに:ABCトリオ特集・完結】
これで、ビート、カプチーノ、AZ-1という「平成のABCトリオ」すべての特集が完了しました。
それぞれが全く異なるアプローチで「運転の楽しさ」を追求した、奇跡のような時代。
次回からは、さらにマニアックな「平成のホットハッチ」の世界へ足を踏み入れます。パルサーGTI-R、スターレットGTターボ、ミラターボTR-XXなど…。リトルモンスターたちの競演にご期待ください!


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